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1  SMSI                             TT(正会員)
1978年に当時New JerseyにあったExxon研究所のS.J. Tausterらにより,8族貴金属(Ru, Rh, Pd, Os, Ir, Pt)とTiO2担体の間に,可逆的に起こる強い相互作用が報告された。(Tauster, S. J.; Fung, S. C.; Garten R. L. J. Am. Chem. Soc. 1978, 100, 170-175)  

2 wt% Pt/TiO2は塩化白金酸溶液を酸化チタンに含浸させて調製した。水素存在下, Pt/TiO2を200℃で還元したもの(LTR)に対し,水素吸着量,一酸化炭素吸着量を求めるとそれぞれ H/Pt = 0.88,CO/Pt = 0.65 であったが,Pt/TiO2を500℃で還元したもの(HTR)に対しては,H/Pt = 0.00,CO/Pt = 0.03 という値が得られた。H/Pt,CO/Ptは,金属粒子の分散度(dispersion; 全金属原子数に対する表面原子数の割合)を表すから,高温還元(HTR)により,金属粒子がシンタリングを起こして分散度が極端に低くなったものと考えら れた。しかし,XRD,TEM観察によると,HTR,LTR処理された試料の粒子径分布に大きな差はなかった。
 次に行われた実験では,2 wt% Pt/TiO2と同様な分散度変化を示す2 wt% Pd/TiO2試料に対し,LTR → HTR → LTR → 400℃での酸素処理→ LTR → HTRと連続して処理が行われ,それぞれのH/Pdを調べると,
LTR(0.93)→ HRT(0.05)→ LTR(0.05)→ O2 400℃ → LTR(0.89)→ HRT(0.03)
と言う結果が得られた。すなわち,高温還元(HTR)された試料を室温に戻し,低温還元(LTR)しても分散度に変化は無いが,400℃酸素で処理すると,H/Pdがほぼ完全に戻る,ということが示された。
 HTR処理された酸化チタン担持貴金属では,金属−担体間に強い相互作用(Strong Metal-Support Interaction)が生じ,担持された金属の水素吸着能,CO吸着能あるいは水素化能が著しく減少するのである。この相互作用は400℃酸素処理, LTR処理を行う事によって可逆的に元の状態にもどる。このような強い相互作用をSMSIと呼び,HTR処理された試料がSMSI状態にある,という。

当初は,SMSI状態とは,高温還元(HTR)により生成した担体の電子が,貴金属に流れて起こる(電子移動モデル)ものと解釈された。500℃と言う温 度でも金属間化合物(たとえばTiPt3)が一部生成すると言う事も考えられた。しかし,それを支持する確定的な結果を得る事ができず,1980年代後半 から次第に,デコレーションモデル(あるいは encapsulation modelともいう)が主流になった。デコレーションモデルでは,貴金属粒子を還元性担体TiOxが覆っているとされる。
 筆者はデコレーションモデルにはなんとなく懐疑的である。SMSI状態とは担持金属種が還元性担体化合物で覆われていると言うのが一般的なのだろうか。
1)    もしデコレーションモデルがSMSIの主要因であるということに懐疑的な方 
  がおられたら,その理由。
2)    デコレーションモデルの直接的証拠とはどのようなものがあるのか。それを 
  示す資料あるいは論文を教えて下さい。
3)    デコレーションモデルが起こるドライビングフォースとは何か,また,その
    メカニズムはどのようなものか
の3点のうちのどれかについて賛否含めたご意見を頂戴したいと思います。

ご意見の送り先 mailto:koukai.touron23@gmail.com
件名には 「A原稿 001」とご記入の上,添付ファイルあるいはメール本文へのベタ打ちでお送り下さい。



1-1                     坪井吾朗(正会員)
1)デコレーションモデルに懐疑的か?
 担体と貴金属の組み合わせでデコレーションモデルになったり、ならなかったりしていると思います。
 還元され易い担体はTiO2以外にもCeO2等の希土類、Fe2O3等の遷移金属があげられます。
 これら担体と貴金属の相互作用が中程度の組み合わせはデコレーションモデルになると思います。しかし相互作用が強い組み合わせは、複合酸化物や固溶体を作ると思います。
  以上を整理すると以下のように考えています。
 (1) 貴金属と担体との相互作用が強い組み合わせ ⇒ 複合酸化物or固溶体を形成
 (2) 貴金属と担体との相互作用が中程度の組み会わせ ⇒ デコレーションモデル
 (3) 貴金属と担体との相互作用が弱い組み合わせ ⇒ SMSI効果が起きない
  ここでの「相互作用」とは何で測るか?となりますが、正直、自信がありません。
  O2-TPDでPGMの酸化物がメタルに分解する時の温度を相互作用と見なして良いかな?と思っています。何かご意見を頂けたら嬉しいです。
  またSMSI効果は貴金属以外では起きないのも(私の知る限りです)Ni等の金属では担体との相互作用が強すぎて上記の@のパターンになるからだと思っています。
 
2)デコレーションモデルの直接的証拠とはどのようなものがあるのか。
  「Catalysis Today 50 (1999) 175-206」では、HREMで、Pt/CeO2がデコレーションモデルになっている写真を記載しています(総説ですが)。
 これが直接的な証拠だと思います。
  ただしこの論文ではPd/CeO2はPdがCeO2に固溶する事も主張しております。
  私が1)の考えにたどり着いた論文になります。
 
3)    デコレーションモデルが起こるドライビングフォースとは何か?
  貴金属と還元された担体との相互作用だと思います。
  還元され易い酸化物を担体に使うと、担体は貴金属からのスピルオーバーにより還元されたのち
 以下のa、bのうち熱力学的に安定な方に向かうと思います。 
   a 貴金属と担体との複合酸化物or固溶体
   b 貴金属を還元された担体が覆うデコレーションモデル
 a or b かは1)と同じく貴金属との相互作用によって決まると思います。また「担体と貴金属との相互作用」で意味する「担体」の特性は「担体のバルクの特性」よりも「担体の表面の特性」を考えるべきかもしれません。



1-1-1                     KT(正会員)
  (a) 貴金属と担体との相互作用が強い組み合わせ ⇒ 複合酸化物or固溶体を形成
  (b) 貴金属と担体との相互作用が中程度の組み会わせ ⇒ デコレーションモデル
  (c) 貴金属と担体との相互作用が弱い組み合わせ ⇒ SMSI効果が起きない
については、貴金属の状態、すなわち、触媒が置かれている雰囲気を限定して議論するべきだと考えます。

(a)では、貴金属成分が酸化状態(陽イオン状態や酸化物として存在)にあって、“酸化された貴金属成分”と担体との相互作用が強い場合というのが正確な表現になると思います。その場合には、複合酸化物や固溶体を形成する可能性は高くなります。

本来、金属と酸化物は相互作用が弱いもので、相互作用がある程度強い担体の場合でも、金属微粒子の分散度が高くなる、金属粒子がraft-likeになるという程度のものです。
一方で、担体酸化物の還元が進行した場合には、上記の相互作用とは桁違いに強い相互作用が生まれ、これをSMSIと呼ぶことになっていると思います。

最も重要なポイントは、担体酸化物の還元が進行するかどうかですので、水素TPRを用いるのが標準的です。貴金属の価数変化に帰属される水素消費量より多くの水素が消費されるかどうか、その温度がどの程度になるかをTPRから読むことになります。

(3)担体酸化物が還元されて生じた種と金属表面の相互作用は、還元される前の担体酸化物と金属表面の相互作用と比較して強い場合に、デコレーションモデルのような構造を持ち、そのドライビングフォースは、熱力学的に安定であることに他ならないと思います。
 ポイントは還元された担体成分の種でないと金属表面との強い相互作用ができないことを踏まえると次のようになるかもしれません。すなわち、最高価数まで 酸化されている状態は、基本的に酸化物イオンに取り囲まれている状態で、この種と金属表面の相互作用は酸化物イオンを介したものになるのに対して、還元さ れた種(Tiの3価、セリウムの3価など)は、酸化物イオンの欠陥が豊富にある状態ですので、中心のイオンと金属表面が直接相互作用する、すなわち化学結 合を形成することが可能となり、それが安定な場合にSMSIが起こるという解釈です。

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