排煙脱硝触媒

 燃焼に伴って大気中に放出される窒素酸化物は主として一酸化窒素(NO)で,少量の二酸化窒素(NO2)を含みます.両者を併せてNOxと呼びます.SOxの生成は,かならず燃料中の硫黄化合物に起因する(ここ参照)のに対して,NOxには,燃料中の窒素化合物が燃焼という酸化反応で転化するもの(これをFuel NOxという)と燃焼空気中の窒素と酸素が高温状態で反応して生成するもの(これをThermal NOxという)があります.したがって,前述した石油類の脱硫のように,燃料を事前に脱窒素したとしても,燃焼排気ガスは必ず,窒素酸化物を含むことになります.Fuel NOxは燃焼域での酸素濃度が高いほど多く発生します.Thermal NOxは燃焼域での酸素濃度が高いほど,燃焼温度が高いほど,滞留時間が長いほど多量に発生します.

 工業用の燃焼装置からでるNOxを減らす原理は,上述の生成原因を潰せばよいことですが,燃料中の窒素分を除去することは,脱硫以上に困難です.Thermal NOxを減らすための,酸素濃度低減・燃焼温度低下・滞留時間短縮も,実施されているものの脱硝には限度があります.

 結局,火力発電所や工場の大型ボイラーの排ガスには,発生したNOxを,排ガスから除去するアンモニア選択接触還元法(SCR法)が用いられます.この方法は,数%の燃焼残酸素と数百ppmのNOxを含む排ガスに,NOxと当量程度のアンモニアを添加して,触媒上で窒素と水への還元反応を行わせるものです.

 100万KWの火力発電所が出す排煙は1時間に330万m3 (東京ドーム4杯分)にも及び,排煙脱硝触媒は,大量の排ガスを少ない圧力損失で処理することが求められます.したがって,この触媒はハニカムまたはプレート状に加工したチタン(Ti)・バナジウム(V)系が一般的です.


(C) Catalysis Society of Japan 2007
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