炭化水素の水蒸気改質触媒

 水素は石油類の水素化脱硫に際して,また種々の水素添加反応の還元剤として大量に用いられます.また,アンモニアやメタノール製造の原料でもあります.水素の製造については,石油類の接触改質触媒の項で,接触改質反応に伴って副生する水素について述べましたが,増大する一方の水素需要をまかなうために,炭化水素の水蒸気改質反応が利用されるようになりました.一般に水素を製造するというと,水の電気分解による水素を思い浮かべる人が多いと思いますが,その利用はきわめて限定された分野です.わが国では,燃料油の使用量増大と,水素化脱硫の脱硫度強化が,水蒸気改質プロセスを急激に増大させました.他方,発展途上国では,食料増産のためのアンモニア需要がこのプロセスの普及の原動力でした.

 水蒸気改質触媒はアルミナなどの担体にNiを含浸させたものが使われます.この触媒は微量の硫黄にも被毒されるので,原料となる天然ガス,液化石油ガス,軽質ナフサなどは,水蒸気改質に先立って徹底的に脱硫されます.水蒸気改質触媒は,他のプロセス触媒とは異なった形状をしています.多くは,蓮根を輪切りしたような形を採用しています.それは,この反応が極めて速いことに対応するとともに,高い圧壊強度,低い圧力損失を実現するための工夫です.

 水蒸気改質反応は大きな吸熱反応なので,多数の管型反応器を加熱炉の中に配置するなど,反応熱を効率よくプロセス流体に与えるための種々の工夫がなされています.生成物は水素を主としますが,他に一酸化炭素(CO)と少量の二酸化炭素(CO2)も含みます.前者は水性ガスシフト反応によってさらに水素に転換し,二酸化炭素は分離されることによって,水素が単離されます.

 水蒸気改質反応の平衡定数は非常に大きく,原料炭化水素中の水素はもちろん,ガス化剤である水蒸気の水素も水素源となっています.したがって炭素析出のない場合の生成物組成はシフト反応とメタン化反応の平衡を考慮すれば算出できます.現実には,装置と運転コストの経済性も考慮されて, 水蒸気/炭素比(H2O/C): 約3,反応温度: 約800℃,反応圧力: 約20気圧(2 MPa)で運転されます.

 水蒸気改質反応では,触媒上への炭素析出がしばしば問題視されます.これは,生成物である一酸化炭素や少量のメタン(CH4)が不均化反応によって炭素を析出させるもので,触媒活性の低下はもちろん,時に触媒を内部から崩壊させたり,反応管の閉塞などのおおきなトラブルを起こします.現実には,これらの反応平衡を考慮して,反応温度,反応圧力に対応する炭素析出を起こさない最小の水蒸気/炭素比(H2O/C)以上の領域で運転することとしています.


(C) Catalysis Society of Japan 2007
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