光触媒

 光を吸収して化学反応をおこす固体材料,これが光触媒です.反応の前後で光触媒は変化しないので「触媒」ということばが使われています.光触媒は,光のエネルギーによって光触媒の中に生じる励起電子と正孔が活性種としてはたらき,光触媒の表面にあるさまざまな化学物質に対して酸化還元反応をおこします.たとえば,水が電子と正孔により還元,酸化されると,それぞれ水素と酸素が生成します.この反応の原理は1970年代はじめに発見され,「本多−藤嶋効果(Honda-Fujishima Effect)」として知られています.水を酸素と水素に分解することは,光のエネルギーを化学のエネルギーに変換したことになります.

 いっぽう,通常の空気中や水中で光触媒に光をあてると,空気に含まれる酸素が励起電子により還元されると同時に,いろいろな有機,無機の化合物が酸化されます.たとえば,室内の空気中にあるホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物(VOC)が正孔により二酸化炭素(CO2)にまで酸化される「無機化」がおこります.このように化学物質が分解除去される光触媒酸化反応は,さまざまな製品に応用されています.
[光触媒酸化反応の実例]

 このような酸化反応とならんで応用がすすめられているのが光誘起超親水化現象です.酸化チタンなどの光触媒をコーティングした表面に光を照射すると,水をかけても水滴ができず,うすい水の膜状にひろがるという表面の「超親水化」がおこり,光照射をやめてもしばらくその状態が持続します.これも光触媒反応の一種です.ビルの外壁やガラスを光触媒でコーティングすると,汚れがつきにくく,ついても雨水によって流れやすくなる「セルフクリーニング」効果が期待できます.
[光誘起超親水化の実例]

 酸化チタンは,安定,無毒無害であるため,もっともひろく利用されている光触媒ですが,光触媒反応をおこすためには紫外光(波長が約400ナノメートル以下)が必要です.太陽光や室内の照明にたくさんふくまれている可視光を利用するため,酸化チタンを加工したり,べつの種類の光触媒を開発したりするなどの研究がさかんに行われています.


(C) Catalysis Society of Japan 2007
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