自動車触媒

 排ガス規制は,当初大型の固定発生源である諸工場から始まりましたが,それらの排ガス処理が進むにつれて,自動車などの移動発生源からの環境汚染が重要視されるようになりました.もちろん,自動車台数の増加という,排ガス量の増大という背景もあって,自動車排ガスの規制は年々強化される方向です.

 自動車にはガソリンを燃料とするガソリンエンジンと軽油を燃料とするディーゼルエンジンがあり,一般に,ガソリン車は乗用小型車に,ディーゼル車はバス・トラックなどの大型車に使われます(注:ヨーロッパでは,乗用ディーゼル車も多い).両者の排ガス特性は,燃料と燃焼方式の違いを反映して,大いに異なります.

 ガソリン車の排ガスに含まれる環境汚染物質は主に,NOx,炭化水素(HC),COです.1970年代後半,これらを同時に除去する三元触媒が開発されました.これは,一体型成形(モノリス)されたハニカム状コージライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)担体に多孔質アルミナを塗布し,これに白金(Pt),パラジウム(Pd),ロジウム(Rh)などの貴金属を含浸担持したものです.

 三元触媒の働きは,ここに示すように,性質の異なる反応を同一触媒上で実現した点で画期的ブレークスルーでした.NOxの還元には,当然還元領域(酸素の少ない領域)が好都合ですが,酸化反応であるHC,COの燃焼にとっては,不都合で除去率が低くなります.HC,COの酸化にとって好都合の酸素の多い領域では,NOxの除去がうまくできません.このようなしがらみの中で,理論空燃比14.6の前後(僅かに開いた窓:ウインドウと呼ばれる)では,NOx,HC,COすべてが,約90%の除去率で浄化されます.

 自動車のマフラー触媒は化学プラントの反応器に充填されて利用される触媒と異なり,反応ガスの濃度や温度などの反応条件が,エンジンの駆動状態とともに変化する過酷な条件に耐えなければなりません.加えて,振動や長期間使用に耐える耐久性も要求されます.担体にコージライトというセラミック結晶を用いるのは,この材料の熱膨張係数が小さく,耐熱衝撃に 強いからです.しかし,このままでは,貴金属の分散がよくないので,結晶表面をアルミナ層で覆ってあります.

 この触媒開発の成功なくして,自動車の普及を語れないほど,貴重な存在の触媒です.しかし,触媒は自動車の排気パイプのエンジンとマフラーの間という,人の目にふれない車体の裏側に取り付けてあります.まさに縁の下の力持ちとは,この触媒を指すと言ってよいほどです.

 もう一方のディーゼルエンジンの排ガスには,燃料中の硫黄分にもとづく硫酸塩や不完全燃焼に由来するタール状のもの(粒子状物質:パティキュレートあるいはパティキュレートマターPMと呼ばれる)とNOxが含まれます.これらは,ガソリンエンジンに適用された三元触媒では処理できず,従来,エンジン内の燃焼を改善する方法で抑制が行われてきました.排ガス再循環などの燃焼温度を下げる方法はNOxの低減に有効ですが,逆に粒子状物質を増加させる傾向にありますので,後処理装置の開発が急がれているところです.


(C) Catalysis Society of Japan 2007
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