石油類の脱硫触媒

 各種の石油製品は,沸点の低い成分から,高い成分まで多成分を含む原油を蒸留することによって得られます.得られた各留分は,多かれ少なかれ有機硫黄化合物を含みますので,これを燃焼するときに発生する硫黄酸化物(SOx)を事前に除去する目的で,石油類は脱硫されます.xには種々の値がありますが,大部分は二酸化硫黄(SO2)です.ガソリンとなるナフサ留分,ストーブオイルとなる灯油,ジェット燃料,ディーゼル燃料,発電などのボイラー向け重油などは,それぞれに対応した反応条件で,水素化脱硫されます.この際使われる触媒も,対象とする留分ごとに最適化されたものが使われますが,多くはアルミナ(Al2O3)担体に主にモリブデン(Mo)を,補助的にニッケル(Ni),コバルト(Co)を担持したものです.通常,触媒工場から出荷されるとき,担持金属は酸化物状態ですが,使用前に硫化され,硫化金属として反応機作に関与しています.時として,製油所における硫化作業を合理化するため,硫化触媒として出荷されることもあります.

 原油に含まれるもっとも重い留分である「残油」は,大きな分子を含み,硫黄化合物も難反応性です.したがって,残油の脱硫条件は過酷なものとなり,触媒使用量も大きなものとなります.一例を示すと,一機の反応器に充填される触媒容積は300 m3にもなり,これを充填する作業も壮観なものとなります.通常,触媒は200 リットル(0.2 m3)のドラムに充填して出荷されますので,ドラム数は1500本となります.これを高さ30 mの反応器の入り口マンホールまで連続的に運び,定められた充填法で,反応器下部から上に満たして行くことになります.反応器内部にいる作業者は,その特殊環境から,エアラインマスクをつけての作業となりますが,厚さ30 cmの反応器壁で外界から遮断された世界は,異様な気分にさせるものです.このように大きな反応器の場合,上から流れ落ちる反応原料油が均一になるよう,内部構造上の工夫をする他に,触媒にも,形状・充填密度・機械的強度などの点で,厳しい仕様が要求されます.

 石油の各留分は,元来含まれる硫黄分濃度が違う上,脱硫されやすさも各留分で異なります.現在のガソリンや灯油は,ほとんどサルファーフリーまで脱硫されていますが,軽油には50 ppm(重量百万分率)ほどの硫黄分が含まれています.しかし,30年前までの日本の軽油は,12000 ppmもの硫黄を含んでいたことと比較すると,1/240 にも低減されたことに驚くばかりです.

 硫黄酸化物は石油燃焼以外に,主に石炭燃焼火力発電所でも発生します.こちらは,排煙脱硫装置によって除去され,結果として日本は世界一清浄な大気のもとで生活できています

 わが国は,国土面積あたり産業集積度が高い(エネルギー消費量が大きい)ため,過去の高度成長期には,大気の汚染が進みました.脱硫触媒と脱硫プロセスの進歩,普及によって,わが国の空が,いかにきれいになったかは,環境白書が鮮明に物語っています.


(C) Catalysis Society of Japan 2007
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