石油類の接触改質触媒

 石油を蒸留して得られるナフサ留分はそのままではオクタン価が低く, 今日の高圧縮比のエンジンには向きません.圧縮比を大きくできれば,それだけ輸送性能も向上しますが,その分オクタン価の高いガソリンが必要となります.オクタン価の高い成分とは,芳香族,オレフィン,イソパラフィンで,逆に低い成分は直鎖パラフィンです.ナフテン類のオクタン価はその中間に位置します.直留ナフサに含まれるナフテン類を脱水素して芳香族にするとともに,直鎖パラフィンを環化脱水素して芳香族や水素化分解してイソパラフィンに変換する画期的プロセスが1949年に開発されました.直留ナフサから,芳香族成分に富んだガソリンを製造する操作を接触改質(リフォーミング)といい,ここで用いられる白金(Pt)-塩素添加アルミナ触媒は,代表的二元機能触媒とされます.

 接触改質プロセスが爆発的に増えた背景には,当時のアメリカのモータリゼーションや高速道路時代がありましたが,このプロセスは,他にも優れた点を持っています.それは,このプロセスが石油化学原料としてのベンゼン・トルエン・キシレン(BTX)製造プロセスにもなることと,脱水素反応に伴って得られる多量の水素を,安価に併産できる点です.

 開発以来20年間ほどは,触媒成分のPtにちなんで,このプロセスはプラットフォーミングと呼ばれました.しかし1960年代後半になって,にわかに改良触媒が出始めました.それがPtにレニウム(Re)を添加したバイメタル触媒で,錫(Sn)やイリジウム(Ir)などを加えたマルチメタリック触媒でした.

 脱水素反応は,熱力学的には低圧が有利であるにもかかわらず,接触改質プロセスは500 psig (psig: ポンド/平方インチ,500 psig = 3.5 MPa,およそ35気圧)程の水素加圧下で運転されてきました.これは,触媒劣化要因であるコーク析出を少しでも抑制しようとするものでしたが,これらの新しい触媒は,コーク析出が少なく,より低圧運転を可能とするものでした.さらに,1970年代に入ると,この新しい触媒の特性を生かした新しいプロセスが誕生しました.それは,触媒を反応塔から再生塔へゆっくり循環移動させるもので,新触媒の耐コーク性を利用しながらも,運転中の触媒再生をも実現したことによって,改質反応としては,究極の低圧運転を可能にしたものでした.プラットフォーミング触媒の特許は,一世を風靡した画期的なものとして有名ですが,その後の改良触媒が,プロセス改良を呼び,プロセス改良がさらなる触媒改良を呼ぶという好循環の典型例となったものです.


(C) Catalysis Society of Japan 2007
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