酸化反応は全化学プロセスのおよそ3割を占め,工業的に最も重要なプロセスですが,精密化学品製造分野においては,いまだに過マンガン酸,クロム酸などの重金属塩,過酸化物や有機ラジカルを用いた方法が広く用いられているのが現状です.このような理由で酸化反応プロセスは最も環境を汚染しているプロセスの1つであるといわれています.そのため酸化剤として,酸素(空気)や過酸化水素を用いた不均一系触媒プロセスの開発が切望されています.アルカンやアルケンを酸素酸化して付加価値の高い化合物を直接得ることができれば望ましく,ブタン酸化による無水マレイン酸製造はバナジウム,リンからなる複合酸化物(ピロリン酸ジバナジル)触媒を用いて工業化されています(図2).クロロヒドリン法により製造されていたエチレンオキシドも現在では,担持銀触媒を用いたエチレンの気相酸素酸化反応により製造されています(図3).このエチレンの酸素酸化反応は不均一系触媒を酸素酸化反応に用いたもっとも優れたプロセスの1つであり,年産107トン以上の非常に大規模な工業プロセスです.アルコール類のカルボニル化合物への選択酸化反応は精密化学品製造分野で中心的役割を果たしていて,これまでの副産物を大量に生成するプロセスから不均一系触媒を用いた酸素酸化プロセスの開発が望まれています.近年,構造の制御されたルテニウム,パラジウム,金,白金などを固定化した不均一系触媒が酸素を酸化剤とした広範囲なアルコールの選択酸化反応に対して高い活性を示すことが見出されていて,実用化が期待されています.ENI社によって開発されたMFI構造中にチタンを含有するチタノシリケートは過酸化水素を酸化剤としたアルケン類のエポキシ化,スルフィド類の酸化,フェノール類の水酸化などに適用可能です(図4).なかでも,アンモオキシム化反応はこれまでのヒドロキシルアミンを用いたオキシム合成の代替となります(図4).MFI構造では細孔径が狭く,かさ高い分子の酸化は困難でしたが,MFI構造に比べて細孔径の大きな様々なチタン含有多孔体が合成されており,これらを用いるとかさ高い大環状化合物の酸化も可能になります.
![]() 図2. n-ブタン酸化による無水マレイン酸の合成. |
![]() 図3. エチレンオキシドの製造. |
![]() 図4. チタノシリケート触媒による過酸化水素を酸化剤とする酸化反応例. |
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