不均一系触媒によるグリーン合成プロセス

 我々の毎日の生活を振り返ってみると,衣類,靴,容器,袋,建材など,身の回りのありとあらゆるところで化学製品が使われています."化学工業あるところに触媒あり"と言われるほど,その原料のほとんどが触媒を使って合成されています.工場や自動車の排気ガスをきれいにして,酸性雨の原因となるNOxやSOxを除去するのも触媒です.その他にも医薬品や食品,肥料や農薬までもが触媒を用いて合成されており,我々の快適な生活は,もはや触媒なしには考えることができません.特に最近では,環境ホルモンや酸性雨問題,地球温暖化など,地球規模での環境破壊が深刻な社会問題となっており,触媒に対する期待が一段と高まっています(表1).これからは,有害な薬品を使わない,廃棄物を出さない,再使用が可能など,触媒を使った"環境に優しいものづくり"が重要になってきます.

表1. 触媒技術の応用分野

分野 用途

資源エネルギー
  • 多様な炭素資源の利用,クリーン燃料(特に自動車燃料)
  • 燃料電池 など

  • 環境・民生
  • NOx, SOx, すすの除去
  • 触媒燃焼, 脱臭, 浄水, 空気浄化・バイオマス利用
  • 生分解性ポリマー など

  • 製造・合成
  • クリーン化学合成
  • 不斉合成
  • C1化学
  • リサイクル技術
  • 有害・危険物質を使わない合成
  • 複合プロセス(膜分離, 電気, 光) など

  •  触媒は,溶液中に溶けて働く"均一系触媒"と,そのもの自体は固体で反応液や反応ガスと接触して働く"不均一系触媒(固体触媒)"とに分類されます(図1).不均一系触媒プロセスは石油化学産業では広く用いられており,基礎化成品製造における実用プロセスのおよそ8割以上で不均一系触媒が用いられています.医薬・農薬や電子材料などの精密化学品製造には,不斉反応など厳密な反応の制御が必要であり,均一系触媒プロセスに依存することが多いのが現状です.しかしながら,均一系触媒プロセスでは,反応後の生成物との分離や高価な触媒の再使用が困難であるといった問題点もあります.一方,不均一系触媒は,分離,回収,再使用が容易であること,連続して反応器で運転できることなど,のプロセス上の利点がありますが,精密化学品製造分野で不均一系触媒プロセスが経済的に成立するためには,既存の均一系触媒プロセスと比較して,同等あるいはそれ以上の触媒活性,選択性が要求されます.以下に,均一系触媒の代替となった,あるいは代替となり得る不均一系触媒のいくつかの例を酸化触媒,酸触媒を中心に紹介します.


       

    [不均一系酸化触媒]

       

    [不均一系酸触媒]

       

    均一系・不均一系触媒
    図1. 溶液中に溶けて働く"均一系触媒"と反応液や反応ガスと接触して働く"不均一系触媒".

     その他にも,今後有望と思われる様々な不均一系触媒が開発されていて,それらを用いた不均一触媒プロセスの開発が期待されます.


    引用文献
  • 御園生誠, 村橋俊一編, "グリーンケミストリー - 持続的社会のための化学", 講談社 (2001).
  • 北島昌夫他, 宮本純之監訳, "グリーンケミストリー - 環境にやさしい21世紀の化学を求めて", 化学同人 (2001).
  • 実験化学講座(第5版)25巻, 日本化学会編, 丸善株式会社 (2006).
  • 今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい触媒の本, 触媒学会編, 日刊工業新聞社 (2007).
  • P. T. Anastas, J. C. Warner, "Green Chemistry: Theory and Practice", Oxford University Press (1998).
    (C) Catalysis Society of Japan 2007
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